海ごみが工具箱に?株式会社リングスターが進める海と地域を結ぶSDGsの取り組み

株式会社リングスター マーケティング室 広報リーダー 篠田 玲羅さんインタビュー
長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックごみを活用し、耐久消費財として製造・販売する事業に参加。長崎県対馬市及び奈良県生駒市と協力するローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン推進事業に加わり、広報活動のほか、子どもがプラスチックについて学べるワークショップやイベントを企画。キャリア教育等に携わる。
目次
- introduction
- 株式会社リングスターの事業内容や理念について教えてください。
- 環境に配慮した製品づくりとは?株式会社リングスターのサステナブル取り組み
- 株式会社リングスターの製品開発における地域とのつながりや取り組みがあれば教えてください。
- SDGsの17目標の中で、株式会社リングスターが特に注力する目標や取り組みについて教えてください。
- 株式会社リングスターの製品が、持続可能な観光やエコツーリズムの分野において、旅行者の快適性や利便性の向上にどのように貢献するとお考えでしょうか?
- 未来に向けて、株式会社リングスターが「ななめうえ」の視点からエコツーリズムやSDGsに関する新しいプロジェクトやアイデアがあれば教えてください。
- ものづくりで持続可能な環境問題に貢献する株式会社リングスターのまとめ
introduction
画像提供元:株式会社リングスター
株式会社リングスターは、明治20年の創業以来、日本の「ものづくり」の伝統を継承し、お客様に喜ばれる製品づくりを続けてきました。近年では、プラスチック製品を主力とするメーカーとして、環境問題への取り組みにも力を入れています。
特に注目すべきは、長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックごみを活用し、耐久消費財の製造・販売を行う事業です。このプロジェクトでは、長崎県対馬市や奈良県生駒市と協力し、ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン推進事業として展開しています。さらに、子どもたちがプラスチック問題について学べるワークショップやイベントの企画、キャリア教育など、多岐にわたる活動を行っています。
今回は、株式会社リングスター マーケティング室 広報リーダーの篠田玲羅さんに、環境への取り組みやSDGs達成に向けた活動についてお話を伺いました。
株式会社リングスターの事業内容や理念について教えてください。
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
株式会社リングスターは、明治20年の創業以来、138年にわたってプロ用の工具箱・工具バッグ・パーツケースを専門に製造しているメーカーです。
私たちが開発する製品は、プロの職人の皆さんが、工事現場や建設現場などの過酷な現場環境で安全に使用できるよう、耐久性を重視した収納アイテムを開発し、奈良県生駒市の自社工場で製造、販売しています。
また、その高い耐久性を活かし、近年では釣り用のタックルボックスやキャンピングボックスといったアウトドア向けの製品ブランドも展開しています。
環境に配慮した製品づくりとは?株式会社リングスターのサステナブル取り組み
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
私たちは、長崎県対馬市に漂着し、再生が難しいとされていた海洋プラスチックごみ(オーシャン・プラスチック)を活用し、耐久消費財として使用する収納アイテムの開発・製造・販売を行っています。
この事業が始まったきっかけは、弊社代表のご子息が対馬市を訪れた際、海岸に漂着している海洋プラスチックごみと、それに悩まされる対馬市の人々の姿を目の当たりにしたことでした。長崎県対馬市は潮流などの影響で、他国から流れ着いた海ごみがとどまりやすく、受け皿のようになってしまっているため「海ごみの防波堤」とも呼ばれています。その海洋ごみの約50%がプラスチックであり、その処理に年間約2億8千万円もの事業費用がかかっていると言われています。
画像提供元:株式会社リングスター
一般的に「海洋プラスチック」とひとくくりにされがちですが、実は二つの異なる定義が存在します。一つ目は「オーシャン・バウンド・プラスチック(OBP)」で、これは海岸から内陸約50km圏内に存在するプラスチックごみを指します。例えば、海岸から48km離れた店舗のゴミ箱に捨てられたペットボトルもオーシャン・バウンド・プラスチック(OBP)、すなわち海洋プラスチックに分類され、現在市場に流通している海洋プラスチックを使用したリサイクル製品の中には、このオーシャン・バウンド・プラスチック(OBP)を原料にしたものも多く含まれています。
画像提供元:株式会社リングスター
もう一つは「オーシャン・プラスチック(OP)」と呼ばれるもので、これは実際に海から流れ着いたことが確認できるプラスチックごみです。オーシャン・プラスチック(OP)は波や紫外線の影響で劣化が進み、素材の判別が難しくなることが多いため、リサイクルが非常に困難とされています。回収後の素材の選別や洗浄など、多くの工程を経る必要があり、リサイクルコストも高騰します。そのため、オーシャン・プラスチック(OP)のリサイクルは積極的に行われておらず、対馬市ではこれまで漂着したプラスチックごみの多くが埋め立て処分されてきました。しかし、対馬市には、岩場によって船の接岸が困難だったり、切り立った崖に囲まれていて人の立ち入りが難しい場所が多く、仮にごみを回収できたとしても、リサイクル施設までの運搬が難しいビーチが数多く存在します。埋め立てには限界があり、焼却処分など他の方法を採用しても、問題の根本的な解決にはつながらず、海洋ごみの漂着は続いてしまいます。
そこで、私たちリングスターはプラスチック製品の専門メーカーとして、これらのオーシャン・プラスチックを耐久消費財として有効活用できないかと考え、オーシャン・プラスチックを「10%」配合した収納ボックスシリーズを開発しました。
画像提供元:株式会社リングスター
対馬市には白いカゴやオレンジ色のブイなど、さまざまな種類のオーシャン・プラスチックが漂着していますが、まずは年間約4万個以上が流れ着くとされる青いポリタンクの削減に取り組みました。このポリタンクを原料として活用し、2023年4月に本製品を発売し、これまでに約823kgの青いポリタンクを削減することができました。今後は、ポリタンクのリサイクルが完了次第、他のオーシャン・プラスチックの活用も進めていく予定です。
画像提供元:株式会社リングスター
株式会社リングスターの製品開発における地域とのつながりや取り組みがあれば教えてください。
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
私たちのプロジェクトと製品は、海洋プラスチックごみ問題を学校教育やキャリア教育の題材として考えるきっかけを提供する「ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン推進事業」に選定されました。
この事業では、海域の長崎県対馬市と陸域の奈良県生駒市が連携し、プラスチックとの向き合い方や消費の仕方、そして普段触れる機会の少ない製造業の仕事について全国に発信しています。どの地域に住んでいても、海洋プラスチックごみ問題を「自分たちにも関係のある身近な問題」として考えてもらうことが目的です。
特に、陸域に住む生駒市の子どもたちは、対馬市の子どもたちと違い、海から遠い環境で育っているため、海ごみ問題について知る機会がほとんどありません。そこで、私たちが生駒市で製造した製品を持ち込み、学校で「プラスチックとの向き合い方」を学ぶ授業を実施しています。授業では、「高くても環境にやさしい製品を買ってもらうにはどうしたらいいか」という視点でグループディスカッションを行ったり、対馬市の中学生とオンライン交流をしながら「生駒市の小中学生に海ごみ問題を知ってもらうには?」をテーマに考え、発表する場を設けるなど、多方面からアクティブに学べるような出前講座を行っています。
授業後のアンケートでは、多くの子どもたちが「高くても環境に優しいものを選びたい」と回答してくれて、環境問題への意識が高まっていることを実感しています。
また、授業を受けた生駒市の子どもたちの中には、製品を見て「リングスターや!」と親しみを持ってくれる子もいると、地元の方から教えていただきました。自分たちの地元で作られているものを知ることで、地元への関心を育み、「地元産のものを誇りに思う気持ち」が、積極的な消費につながっていくことを期待しています。
SDGsの17目標の中で、株式会社リングスターが特に注力する目標や取り組みについて教えてください。
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
私たちが特に重要視しているSDGsの目標は、「12. つくる責任 つかう責任」と「14. 海の豊かさを守ろう」です。
プラスチックは、加工しやすく、軽くて丈夫でありながら、薬品や電気にも強いという特性を持ち、間違いなく人類の発展に大きく貢献してきた素材です。食品分野はもちろん、医療機器、飛行機や船舶、自動車などの部品、さらにはパソコンやスマートフォンなどの精密機器に至るまで、私たちの生活に欠かせない幅広い分野で使われています。
重要なのは、むやみな「脱プラスチック」を推進することではありません。必要な分野からもプラスチックを排除してしまうことではなく、一人ひとりが購入したものを大切に使い、廃棄する際には適切な洗浄や分別を行うこと。こうした「プラスチックとの正しい向き合い方」を実践することです。
国内外のユーザーの中には、「30年前に購入した製品を今も現役で使用している」といった声を寄せてくださる方もいます。それだけ長く大切に使い続けられる製品を作ることこそ、私たちの企業としての誇りです。
画像提供元:株式会社リングスター
また、「SDGs」という言葉は世間に広く知られるようになりましたが、問題解決へ本気で取り組むことなく一過性の企画で終わってしまったり、企業イメージ向上のために利用されるケースも少なくありません。一方で、「何から始めて良いのか分からない」と悩む企業も多い印象です。
そこで私たちは、「”正しく選ぶ、正しく捨てる、正しく向き合う”世界の実現」を目指し、多くの企業とのコラボレーションや学校での出前講座を通じて、この理念を広める活動を行っています。
画像提供元:株式会社リングスター
株式会社リングスターの製品が、持続可能な観光やエコツーリズムの分野において、旅行者の快適性や利便性の向上にどのように貢献するとお考えでしょうか?
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
奈良県生駒市には、多くのものづくり企業が集まり、それぞれの企業の技術や特色に注目が集まっています。将来的には、私たちの製品を含め、地域と連携しながらものづくりの現場を発信し、「この製品を実際に見に奈良県生駒市へ行きたい!」「ここで一緒に働きたい!」と思ってもらえるようなブランドを、地元の方々や自治体とともに作っていくことができれば、と考えています。
画像提供元:株式会社リングスター
また、私たちの製品は、例えば、長期間の車での旅行時に荷物を整理するための収納ボックスとして活用したり、スーツケースの中で小物を仕分けるアイテムとして使ったりと、さまざまなシーンでで役立っています。
画像提供元:株式会社リングスター
製品の設計にもこだわりがあり、細かい部品を取り出しやすい構造や、仕切り板が外れにくい仕様、中身が混ざりにくい工夫など、プロ向けの機能が一般のユーザーにも便利に活用されています。「長く、大切に使ってほしい」という思いを込めて開発しているため、仕分け用のシールを活用するなど、自分だけのお気に入りの収納ボックスを作っていただければ嬉しいです。
画像提供元:株式会社リングスター
未来に向けて、株式会社リングスターが「ななめうえ」の視点からエコツーリズムやSDGsに関する新しいプロジェクトやアイデアがあれば教えてください。
画像提供元:株式会社リングスター
篠田さん:
今後、リングスターはプラスチック問題の枠を超え、地域の企業との連携をさらに強め、新しい形のキャリア教育に取り組んでいきます。
例えば、小中学生が考えた企画を「製造業」や「ものづくり」の視点からより実現可能なものへとブラッシュアップし、地域の人々に実際に体験してもらう機会を作るなど、授業を単なる学びの場で終わらせず、実践と結びつけ完結させることで、より深い達成感を生み出せる仕組みを作っていきたいと考えています。
こうしたリアルな体験は、大人になっても心に残り続けるものです。それがきっかけとなり、未来の自然を守る意識を持つ人や、生駒市から新たな産業を担うリーダーが生まれることを願っています。
株式会社リングスター・会社概要
画像提供元:株式会社リングスター
社名 | 株式会社リングスター |
本社所在地 | 〒536-0023 大阪市城東区東中浜3-19-16 |
設立 | 明治20年創業 |
代表者 | 代表取締役社長 唐金吉弘 |
事業内容 | ・ リングスター印オリジナルTOOLBOX(スチール・プラスチック製) ・ リングスター印大型車載用BOX(スーパーボックスグレート) ・ リングスター印オリジナルTOOL BAG(Mr.TOOL BAG) ・ フィッシングタックルボックス(ドリームマスター・サーフェス) ・ ホビー・手芸・ドラッグ用クリアケース ・ すべり止めマット(すべりま専用輸入発売元) ・ リングスター印キャンプ収納ボックス(Stark-R) |
公式サイト | http://www.ringstar.co.jp/ |
ものづくりで持続可能な環境問題に貢献する株式会社リングスターのまとめ
画像提供元:株式会社リングスター
株式会社リングスターは、耐久性の高い工具箱や収納アイテムを手がけるだけでなく、環境問題や地域教育にも積極的に取り組んでいる企業です。プロ仕様の製品づくりで培った技術を活かし、アウトドアや旅行、日常生活にも役立つ収納ボックスを提供し、使う人の暮らしをより快適にしています。
また、海洋プラスチックごみを活用した製品開発や、地域の子どもたちにものづくりの魅力を伝えるキャリア教育など、新しい挑戦も続けています。授業で学んだ知識を実際に形にすることで、子どもたちがものづくりの楽しさや達成感を実感できる機会を提供しています。
「長く、大切に使ってもらえるものづくり」を大切にしながら、環境に配慮した製品開発や地域貢献に力を注ぐ株式会社リングスター。これからどんな新しいアイデアを生み出していくのか、今後の取り組みにも注目です。
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